フェレス

昔、貧しい家庭に生まれた男の子がいた。男の子は家族を支える為に、物心ついた時から必死で働いていた。
しかし、彼が手に入れたお金は、無職で酒乱な父と、男遊びの絶えない母に散財し尽くされ、すぐになくなっていった。それでも彼は必死で働いた。お金だけが、親子を繋げる唯一の物だったからだ。
しかし、身を尽くし過ぎた彼は、心身共に疲弊していき、病に臥してしまった。両親は稼げなくなった子供を見限り、弱った彼を置いて、出て行ってしまった。少年は嘆き、悲しみ、そして世の中を憎んだ。働いても働いても、何一つ変わらない人生に、そして、自分を救ってくれない社会の仕組みに。
世界を憎みながら、少年は静かに衰弱していき、訪れる死を待ち続けた。
飢えていった、喉も涸れた。病気で身体のあちこちが痛かった。それなのに、少年はまだ死ねなかった。早く死にたかった……こんなにつらいのに、終わりが見えない。ならば、と彼は心の中で必死に叫んだ。
本当は死シニタクナイ。
誰かタスケテ!
この願いを叶えてくれるなら、
なんでもする……だから!

彼の声にならない魂の叫びが、
怠惰の悪魔を呼び寄せた。
悪魔は気だるそうな顔をしながら、
少年を値踏みするように眺めた。

ベルフェゴール「まあ、ルックスは悪くないかな」
それだけ言うと、怠惰の悪魔はそばで控えていた従者に少年を介抱させた。

ベルフェゴール「名前は?」
少年「……」

少年は必死に声を出そうとしたが、嗄れていて無理だった。

ベルフェゴール「あー、いいや。君に名前をつけてあげるよ……君はフェレス、メフィストフェレスのフェレスだ!」
「メッフィーと同じ年齢で、同じ誕生日に生まれて、ルックスがそこそこ良くて、使えそうだったから、採用……あ、でも退屈になったら殺すから、そこのところ、肝に銘じておいてね」と、ベルフェゴールが恐ろしいことを淡々と言う合間に、従者がフェレスに服を着せていく。
着替えが終わると、従者の少年はフェレスに手を差し伸べた。

メフィスト「……メフィストフェレスのメフィストです。これから、同僚となりますので、よろしくお願いします」

当時、少年は自分の身に何が起きたのか、全く分かっていなかったが、ただひとつ、確かなことがあった。
それは、悪魔が自分の願いを叶えてくれたことだった。

無力な自分に魔力を与えてくれた。
自分を苦しめた両親を、
助けてくれなかった町の人達を、
ベルフェゴールは気だるげに、
だが確実に殺してくれた。

それから、その恩を一身をかけて返す為に、彼も悪魔として、今宵も夜を駆けている。
メフィスト「あの頃は、フェレスも真面目だったのに」
フェレス「メッフィーちゃ~ん?」
メフィスト「なに、この変わり様」
フェレス「だってさ~、真面目に頑張り過ぎてもつまんないじゃん♪( ´▽`)世の中、トークとコミュ力と権力と金とベルちゃんとメッフィーちゃんが大事よ~」
仕事真面目で誠実だったフェレスだが、悲しい過去を洗い流した様にすっかり様変わりし、今やおちゃらけたムードメーカーのホストへと、斜め上の進化を遂げていた。

ベルフェゴール「フェレス、楽しそうだね」
フェレス「ベルちゃん好きだぜ~?」
ベルフェゴール「キモいよ( ̄▽ ̄)」
メフィスト「シューパリジャン、焼けました」
フェレス「おお、うまそう~」
ベルフェゴール「涎垂らしてないで、さっさと盛りつけなよ」
フェレス「はーい」

たのしい、この平穏なひと時が……
ずっと続けばいいのにと。
フェレスは世界の歪みを一瞥して、
心の底から、思った。

END?

Add a Comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA