マスカレードの鬼ごっこ

かれこれ30分は走っただろうか。
城を出てロードワークがてら走り飛んで来たゼピュロスの祭殿。そこで見つけた影に、シャオンは足を止めた。

「てぃ、ティオ(レチタティーヴォ)?」

汗一つかかず壁に背を預けるレチタティーヴォに、「僕の行動パターンはお見通しか」と軽く手を上げて、シャオンは降参のポーズをとる。

「君が眠気覚ましに、こっちに来ることは大体予測できたよ」
「そこまでお見通しか。まいったなぁ」

パァンと互いに手を交わし、そしてそのまま壁にもたれる。

「30分で捕まるなんて、僕は未熟だね」
「いや、そうでもないよ。ノクターンも丁度ファルセットを捕まえたみたいだからね」

耳を澄ますと、聞き慣れたファルセットの「にゃーっ!?」という叫び声が聞こえて来る。

「みんな楽しんでるね。マスカレードだけの鬼ごっこ」
「最後の鬼には罰ゲームが待ってるしね……ふふ、楽しみだね、シャオン」

『鬼ごっこ』と言ったにも関わらず、この二人の間に流れる空気はどこまでも穏やかだ。まるで始めから分かっていたように鬼をすんなりと受け入れたシャオンは一呼吸置くと「さて」と言って足を踏み出した。

「僕はエピックを狩りに行って来るよ」
「うん、いってらっしゃい」

快くシャオンを見送るレチタテーヴォが「終わったね、エピック」と呟いたのはまた別の話である。

「ふえぇん、術を使うなんて反則にゃ」

頭をわしわし掻きながらファルセットは不満を並べる。隣を歩くアコルドエールはファルセットの乱れた服を整えた。

「あんな至近距離で普通波動使う!? 私、運が悪かったら死んでたかも」
「痛そうですね」
「痛いにゃ(ー ー;)」
「ファルセット、大丈夫か?」

2人のもとに、叫び声を聞いたコルダが駆けつけて来た。

「ノクターンに雷で撃たれた~!」
「……容赦ないな(^_^;)」
「鬼ごっこからバトルに発展しないか心配ですね……早く姫を見つけ出さないと」
「そうだな、バトルは避けたいな」

3人揃って歩いている時点で既に鬼ごっこではない。

「こうなったら意地でもサーガ捕まえるにゃ!」
「おっ、ファルセット、やる気だな」
「罰ゲームはイヤだもん!」

どうやらノクターンから受けた鬱憤をサーガで晴らす気らしい。哀れサーガ。

「罰ゲームはなんとしてでも回避しないと……ね、ラン兄?」
「ああ、そうだな」

三人の前に、ツバメを数匹肩に乗せ、更に寝ているリィラを抱えたラメントが舞い降りた。

「ま、僕らが組めば罰ゲームもスルー出来るだろう」
「わ~い、ラメント頼もしい~!」
「頼りになりますね」
「ラン兄も、やっぱり罰ゲームは嫌なんだな」
「レチタティーヴォの考える罰ゲームだからな」
「てか、ナハト寝ちゃったんだ」
「ああ……すぐに鬼を譲渡しちまったからな」

ここで、問題が浮上する。

「ところで、どうやってサーガを探すのですか?」
「そう。問題はそ……」

そこまで言ってファルセットが止まる。
不思議に思ったアコルドエールが後ろを振り返ると、見慣れた影が窺えた。

「……割りと普通にいましたね、サーガ」
「ああ……そうだな」
「僕はてっきり、見つかりづらいところにいると思ってたんだが……案外簡単に見つかったな」
「よ、よし!」

表情をキリッとしめて、先程ノクターンに負わされたダメージなどなかったかのように漫然を装って歩き始めるファルセット。

「罰ゲームへの恐怖はヒトを変えるんですね」

若干呆れるアコルドエールを余所に、ファルセットは何食わぬ顔でサーガに近付いていく。

「や、やっほー! サーガ!」
「ファル?(と、アルにコルダにラメントに、リィラ……?)」

ファルセットの後ろに見える不自然な一同に嫌な予感がしないでもない。が、もし思い過ごしだったら不快な思いをさせることに……。
どこまでも良いひとなサーガ。しかし、それ自体が罠だと気付くのは、僅かこの10秒後のこと。

「あの、サーガって鬼?」
「はは、まさか。俺が鬼だったらすぐにお前ら捕まえに走るぜ」
「そうだよね。………ごめんなさい(>_<)!」
「なっ!?」

ポンと肩を叩き、足早に走り去るファルセット。

「ご愁傷様だな…サーガ」

お人好しで苦労人だなぁ、と苦笑いする三人。
別の場所でその一部始終を見ていたリチェルが、放心状態であるサーガの脇を笑いながら駆けて行く。

「ワンちゃん、こちら~(*´∀`*)手のなる方へ~?!」

プチ(^-^)ノ ̄ ̄

「リチェルぅうううう!!!!!!!!」
「いや~ん、サーガくんがキレたわ~ε=ε=(ノ≧∇≦)ノキャー!?」

さすがのサーガもキレた。目の前を猛スピードで逃げる獲物(※リチェル(*´∀`*))を獰猛な猛獣の如く追跡する。残されたコルダ達は、遠のく影を眺めていた。

 

それと同じ頃マスカレードカストル付近では、始まって40分誰とも遭遇していないエピックが戻って来ていた。こうまで人に会わないと段々不安になってくる。あのメンバーならすでに帰ってしまったという事も十分に有り得るのだ。

「一度確認しておくか…」

そう思って城門を潜った瞬間。何処からともなく、聞き慣れた声が咳き込んでいるのが聞こえた。

「……シャオン?」

背後を訝しみながら振り返ると、そこにはシャオンがいた。

「だ、大丈夫か! シャオン?」
「う、うん。ティオから逃げるのに無茶したみたいで」
「魔力不足が治ったばかりでつらいはずなのに、そんな無理をしてどうするんだよ」

魔力不足と契約の反動と闘うシャオンを気遣い、身体を支えようと肩に手を回すエピック。その瞬間、シャオンは肩に回された手をガシッと掴んだ。彼の華奢で細い体躯からは、全く想像できない握力である。

「今まで僕が鬼だったけど、次の鬼はエピック……キミだよ」
「え…」

シャオンは澄み渡った海のように、実に爽やかに言ってのけた。
いつもの感覚で良心を見せた為に、まんまと騙された悪魔がここに一体。
何かやらかすと予期していただけに、エピックのダメージは大きかった。
気がつけば先程までいたシャオンの姿はそこには無く、茫然自失といったようにエピックは立ち尽くしていた。
そんな彼の目の前を「うわぁああ!」と叫び声を上げながら何かが通り過ぎる。

「……アリア?……と、アルにリート?」

あの後ろ姿は間違いなくアリア達だ。アリアの真似しようにも真似できない、途中で躓くあのドジっぽさと、それをつかさず支えて連れて行く二人の姿が何よりの証拠だ。
呆気にとられて三人の後ろ姿を眺めていたら、いつの間に来たのか、サーガに声を掛けられた。

「エピック?」
「サーガ……」

そして二人の脳内では、ほぼ同時に同じ考えが浮かぶ。
「今コイツに鬼の権利を譲渡してしまえばいいじゃねぇか!」と。
そうと決まれば話は早い。互いに体勢を立て直し、いざ!!

「てやああ!!」
「とりゃあ!」

パァン!!

互いの右手が互いの額にヒットする。

「…………」
「…………」
「サーガ、お前鬼だったのか!?」」
「はあ!? エピックも鬼だったのかよ!?」

互いの鬼を移し替えただけだった。

「くっそー、またみんなを追いかけなきゃなんねぇぜ!」
「は?」
「みんながな、俺をカモにしやがるんだよ!」

言いながらサーガは頭をがしがし掻く。

「ひでぇんだぜ? ファンタジア⇒ルシア⇒エレジー⇒パストラーレ⇒エレジー⇒フィナーレ⇒アラベスク⇒ノクターン⇒セレナーデ⇒ノクターンから回った鬼がファルセットに行ってさ、ファルセット⇒俺⇒リチェル⇒俺⇒ヴァルス⇒俺⇒ヴァルス⇒俺⇒ヴァルス⇒俺⇒リィラ⇒コルダ⇒ラメント⇒俺⇒アリア⇒アル⇒俺⇒リート⇒俺……って来ててさぁ」

(俺より不幸な奴が近くにいたんだな。ていうか、他のやつより身内に近いヴァルスが一番サーガを虐めているとは。てか、スピリーガとゼピュロス組に至っては身内同士でまともに鬼ごっこしていないのが明白だな。リィラ⇒コルダ⇒ラメントって……絶対)

リィラ「鬼になっちゃった」
コルダ「アタシが代わろうか?⇒リィラの手に触れて鬼になる」
ラメント「任せろ、僕が行くよ⇒コルダの手に触れて鬼になる」

(……ていう流れだろ。やれやれ、サーガ、本当にかわいそうだ)

エピックはどこか救われた。

「サーガ、鬼ごっこ終了まであと何分か分かるか?」
「ん? ああ、ヴァルスの率いるクジラがホイッスルが鳴らすまでだから…」

るるるるるるるるルルルゥン。

「…………」
「…………」

無情にも、終了を告げるクジラのホイッスル。

「えっ……今のって、まさかクジラのホイッスルか?……終わり?」
「と、いうことは、俺達が罰ゲーム……!?」

 

マスカレードカストル。

「なんだ、やっぱりエピックとサーガじゃったか」
「ティオ兄さんの言った通りだね」
「エピック、騙してごめんね」

それぞれが好きなことを言いながら、いつもの席に座る。しかし、エピックとサーガだけはレチタティーヴォの席の前に立ち尽くしていた。

「よし、じゃあエピックとサーガに罰ゲームだね」

チェスをしている時より楽しそうに笑うレチタティーヴォ。
ろくなものが来ないと分かっているだけに、テンションがガタ落ちな負け組2人。

「まず、サーガね」
「あ、あぁ……」
「サーガは、一週間『俺はヴァルスの犬です』って書いたタスキをつけたまま生活する」
「なっ……!!」
「安心しろ、タスキに字を書くのはアラベスクだ。きっと丁寧に書いてくれるぞ」

そんな有り難くもないフォローをノクターンが入れると、一同は肩を並べて笑い出した。

「あははっ!! ティオ兄さん最高」
「良かったね、サーガ兄さん。アラベスクは書道やってるから字が上手いよ」

ヴァルスもファンタジアも笑っている。言われた当の本人は、とりあえず必死に何かを抑えようとしている。刃向かっても、相手がレチタティーヴォだと到底勝ち目は無いからだろう。

「じゃあ次、エピック」

サーガが酷い目に遭わされた。自分もタダでは済まない。エピックは思わず身構える。

「エピックは、パトロールで欠席していたナーガに、フェイに代わってこの紙を渡して来ること」
「え、それだけ? ただの代理郵便じゃないか」
「そうでもないよ。紙を見てみなよ」
「なーー!?」

紙に綴られている容赦のない文字に、今度はエピックが固まる番だった。

「あ、ちなみにちゃんとそれが実行されなかった場合、僕が代わりに君に罰を下しに行くから……頑張ってね、エピック」
「お、俺を殴って下さいーーっ!?」

ナーガは、エピックにとって一番寵愛する飼い蛇で相棒でもあった。
そんなナーガに「俺を殴って下さい」の紙を渡して実行してもらう事なんてできない。しかし、罰ゲームは罰ゲームなので……行くしかなかった。

 

ナーガの部屋。

「おかえり、ナーガたん!」
「ただいま、エピック……どうしたの、顔色悪いよ?」

レチタティーヴォに渡された例の紙を、エピックはナーガに渡した。

「……え?……な、なにこれ? むり、エピックを殴るなんてできないよ!」
「それじゃダメなんだ! 頼むから俺を殴ってくれ!」
「ムリ、できないよ(≧へ≦、)!?」
「ちょ、ナーガたん待ってぇえええ!」

要求を拒否して逃走するナーガを追うエピック。彼等がこの後パトロールから帰ってきたアレンとタクトにぶつかり、アレンのメガネが壊れ、アレンに乗っていたメヌエットが落ち、ぶつかって無意識に放電したタクトの雷がなぜかエピックだけに落ちたというのは、それはまた別のお話。

End.

 

コンチェルト「今日、鬼ごっこあったみたいだな」
プレリュード「そうらしいですね……」
バラッド「参加したかった」
プレリュード「熱が治ったら、またできるようになりますよ」
コンチェルト「ところで……やっぱりお前らは出ないんだな」
シャープ「あははは、まあね」
パルティータ「鬼ごっこなんて億劫だからね」
フラット「ベルフェゴール様、紅茶をお持ちしました」
パルティータ「ありがと」

Fin.

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