怠惰ノ悪魔を受け入れし者

メッフィー「パルタ様!」
天使の攻撃を、身を盾にしてパルタに当たらないように動くメッフィー。
パルタ「血が……」
メッフィー「大丈夫です。ベルフェゴール様も、貴方も、必ずお守り致します」
返り血と、自分の血が染み込んだ魔刀「霧ノ蘭時継」を構え、メッフィーはパルタの前に立つ。
屑エル「へ、そんなボロボロな姿で粋がったところで、お前達悪魔はもう、終わりだ!」
パルタ「!……な、なんで、悪魔っていうだけで、こんな……」
屑エル「だから、お前が悪魔だからだよ……この、屑め!」
メッフィー「パルタ様に対する非礼は、僕が許さない!」
屑エル「ほう、来るならこい」
メッフィー「パルタ様、お下がり下さい」
パルタ「め、メッフィー……(く、僕にも、戦う力が、あれば……っ!)」
メッフィー「フェレス、奴の懐に踏み込む……援護を頼む!」
フェレス「あいよ!」
メッフィー「間違って、僕を撃つなよ?」
フェレス「安心しな、俺の弾は屑にしか当たらねぇよ」
メッフィー「セーレ様(ヘカテの悪魔名)、結界でパルタ様を!」
ヘカテ「うん、任せて!」
屑エル「ふ、我等の軍勢に、たった4人で勝てると思っているのか!? それも、一人は戦えぬ足手まといな屑ではないか!」
フェレス「黙れよ、ブサ面!……おら、弾で道を開けたぜ。メッフィー、行け!」
メッフィー「瞬影!」
弾丸の後に続いて、軍勢を薙ぎ払い、一直線に大将てある屑エルへと駆ける。
屑エル「ははは、馬鹿め! やれ、波動だ!」
屑エルの軍勢の天使や兵士たちが皆、光の波動を放った。白麗の如き迅雷の波動の閃光を、メッフィーは魔刀で一点を突いて薙ぎ払い、突進する。
屑エル「な、なんだと!?」
メッフィー「血まみれの十字架(ブラッディークロス)!」
慄いた屑エルの懐に入り、メッフィーは十字に屑エルを斬り捨てた。
屑エル「ぐ、ぐほう!?……お、おのれ、よくも!」
力を振り絞り、立ち上がる屑エル。軍勢は大将が重傷を受けた光景に戦慄する。
屑エル「恐れるな、我らには主の恩恵がある!」
屑エルが雄叫びをあげると、屑エルの身が見る見るうちに治癒していった。その姿を見て、対峙するメッフィーが一歩後ずさった。
メッフィー「神の守護か!」
屑エル「形勢逆転だなぁ、悪魔よ!」
間近で白刃の強撃を放たれ、吹っ飛ぶメッフィー。
パルタ「メッフィー!?」
岩壁の突き出た石の鏃に背中を刺され、血を吐くメッフィーに、兵士たちの槍の雨が降りかかった。胸まで突き刺さった鏃に動きを封じられ、そのまま吊られる形となったメッフィー。
パルタ「こ、このままじゃ、メッフィーが!(僕にも戦う力が、力さえ、あれば……っ!)」

 

ベルフェゴール『力が欲しいのかい?』
パルタ「!?」
心の中に響く、自身が拒んでいた悪魔としての、自分が囁き始めた。
ベルフェゴール『戦える力が欲しい……そうだよね、このままじゃ、君は足手まといだからね』
パルタ「く……なんで、こんな状況になっても、君は出てこないんだ!」
ベルフェゴール『……億劫だから』
パルタ「億劫? なんでだよ、あれは君の大切な執事なんじゃ!」
ベルフェゴール『怠惰の悪魔なんだ、仕方ないだろう? 確かに、メッフィーは大切な執事だよ。でも、煩わしくて動けない……君がやれ』
パルタ「……ぼ、僕が」
ベルフェゴール『僕を受け入れろ』
パルタ「き、君を……」
ベルフェゴール『君はまだ、真実を知ってなお、心の底では認めないでいる。君が僕であること、悪魔であること、魔帝の魔力である、七つの大罪の怠惰を持つものであること……それを受け入れるんだ。だから、君は僕の本来持っている魔力が使役できないんだ』
パルタ「……僕はお前が、大嫌いだ」
ベルフェゴール『うん、知ってる』
パルタ「でも、お前は僕だ」
ベルフェゴール『うん』
パルタ「僕は悪魔だ……でも、ベルフェゴールじゃない」
ベルフェゴール『!?』
パルタ「僕はメフィストフェレスの主人であり、悪魔であり、魔術師ファウストだ!」
ベルフェゴール『くくく、ファウスト……くく、あはははははっ!』
こらえるように、それでも高らかにクツクツと笑うベルフェゴール。
ベルフェゴール『メフィストフェレスの主人、ファウストか。くくく、アースの民間伝説や、ゲーテの書物の影響でも受けたか……でも、いいね、滑稽な君に似合う』
ベルフェゴールは帽子を被り直し、唇で弧を描いた。
ベルフェゴール『ファウストはね、ゲーテの書物だと神に助けられるんだよ。でも、民間伝承だと、本当はメフィストフェレスに魂を喰われるんだ』
パルタ「……僕は書物の登場人物なんかじゃない」
ベルフェゴール『うん、そうだね』
パルタ「僕は君とは別の存在になる」
ベルフェゴール『……』
パルタ「君が僕であり、僕は君だ。その事実は認める……だからこそ、僕は君とは別の、確立した存在になるんだ」
ベルフェゴール『生意気だね……僕のくせに、かなり面倒くさい性格をしている。僕の持つ闇に囚われていても、消えない信念……馬鹿正直で熱くて真面目な僕らしい』
ベルフェゴールはステッキを回しつつ、帽子の鍔に手をかけて再び被り直した。
ベルフェゴール『では、魔術師ファウストとなった僕……力が欲しいんだよね。僕の想像じゃない形となったけど、あげるよ、悪魔の魔力を、ファウストとなった僕へ!』
ベルフェゴールが琥珀の双眸を煌めかせて笑い、手を差し出した。対峙したパルタも、覚悟を決めてベルフェゴールへと手を伸ばす。
パルタ「!」
ベルフェゴールに手を引かれ、腰に腕を回された刹那、パルタは身じろいだ。抗議を上げようとした口を、ベルフェゴールの唇で塞がれる。暴れるパルタをしっかりと抱きとめ、Kissをやめないベルフェゴール。
重なった唇から流れてくる何かに、パルタの全身が痙攣して反応を示す。
パルタ「(し、思考が、停止する……抵抗することを、拒む?……抗えない力が、体内を、蹂躙する……これが、ベルフェゴールの魔力?)」
パルタの左眼が、琥珀の色に染まる。
ベルフェゴール『(拒絶なんて、できるわけないさ。君は僕なんだからさ)さあ、パルタ……最高の奇術劇を始めよう!』

 

屑エル「まずはお前だ、執事! 千の槍の雨に打たれてくたばるがいいー」
ヘカテ&フェレス「メッフィー!?」
メッフィーに降り注ぐ千の槍。その豪雨を、暗黒の波動の球が弾き飛ばした。
兵士「な、なに!?」
球体が消え、その中からオリハルコンの羽衣を纏ったパルタが現れた。
ヘカテ「パルくん、い、いつの間に!?」
メッフィー「パルタ様!?」
屑エル「なんだ、あのヴェールは!?」

ベルフェゴール『ふうん、剣や銃でもなく、羽衣ね。でも、攻守をどちらもできる……専守防衛な君らしい武器だね(僕の魔力とオリハルコンの杖でできてるから、変形能力もあるわけだ)』

パルタ「はあっ!」
岩壁を切り裂き、メッフィーを抱き抱える。
メッフィー「ぱ、パルタ様」
屑エル「皆撃て! 波動でも銃でもなんでもいい!」
エデンの軍勢の弾丸や波動を、片手で羽衣を操り、弾いて身を守るパルタ。彼の左眼は琥珀に染まっている。
パルタ「アポカリプス・メテオナイト」
屑エル「ぐあああっ!?」
降り注ぐ流星群に、為す術もなく討ち滅ぼされていくエデン軍を眺望し、パルタはヘカテたちのもとへと降りた。メッフィーを下ろすと同時に、左眼が琥珀の色を失う。また、パルタもその後を追うように意識を失った。地に倒れそうになるパルタをメッフィーがつかさず支え、一同は安堵の表情を浮かべた。

 

パルタ「う」
ベルフェゴール『やあ、ファウスト』
パルタ「べ、ベルフェゴール!?」
ベルフェゴール『……魔力を全く使ったことないからね。君は精神力を費やし過ぎて昏倒したんだよ』
パルタ「同じ身体なのに、僕が使うとこうなるんだ」
ベルフェゴール『容易ではないさ、僕の魔力だからね。さて、僕は寝るよ……疲れたから』
パルタ「ベルフェゴール、ありがとう」
ベルフェゴール『潮らしい君なんて、なんか変な感じだね。でも、気を張ってないと駄目だよ、パルタ。僕から分離して別の存在になろうという気持ちがある限り、僕は君を侵蝕する……心身共にね』

 

パルタ「うん、分かってる」
ヘカテ「なにが分かってるの?」
パルタ「わ、わあ……ヘカテ!?」
フェレス「なんだ、寝惚けてんのか?」
パルタ「あ、いや……あはははは、何でもないよ」
メッフィー「パルタ様、大丈夫ですか?」
パルタ「うん……君は?」
メッフィー「はい、すこぶる康寧です。パルタ様、あの時は本当にありがとう御座いました」
パルタ「あ、あれは……ベルフェゴールの力でもあるから」
メッフィー「存知上げております。それでも、御礼を申し上げさせて下さい」
パルタ「……」
メッフィー「本当にありがとう御座いました……マイ ロード」
パルタ「……」
メッフィー「今宵は快気祝いということで、奮発させて頂きました。アースのフレンチをご堪能下さい」
パルタ「あ、ありがとう、メッフィー」
ヘカテ「あ、食べたら魔法薬飲んでね。まだ病み上がりなんだし」
フェレス「食後にみんなで風呂入ろうぜ」
全員「却下」
フェレス「えー(´・ω・`)」
メッフィー「無性同士だからって、いいものではないです」
フェレス「つれないなぁ」
ヘカテ「フェレスって、ほんとに下心いっぱいだよね」
フェレス「まあな( ̄▽ ̄)」
三人「褒めてない!」
フェレス「お、シンクロ~!」
パルタ「……(ベルフェゴール、僕、君には負けないよ)」

 

END.

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