僕のヴァレット

※R-18
もうどれほどの月日が経っただろうか。自分をベルフェゴールと知り、僕は『僕』を拒絶した。それでも、どんなに否定しようと僕は『僕』だった。だから、僕は『僕』を心の底では拒めずにいた。それを初めから悟っていたベルフェゴールに先手を打たれ、僕は『僕』の牢獄に閉じ込められた。
「あ……ぁっあ」
淫靡な喘ぎ声が響く暗闇。ベッドボードにつけられた手錠と、ベッドの脚につけられた足枷に身体の動きを封じられ、その状態で僕は『僕』であるベルフェゴールに喰われて続けていた。
「相変わらず、かわいい声で啼くね」
「ひっ……ぁあっあ、んぁ!」
だめだ……ベルフェゴールの与える快楽が残酷なほどに強すぎて、逆らえない……まるで心の底では、彼にこうして弄ばれることを、愛されることを、望んでいるみたいだ。強情を張るものの、二度果てた後は僕はすっかり彼の操り人形となってしまう。
「ベルフェ、きも、ち、イイ」
「素直になったね……良い子だ」
ご褒美にと深いKissを施され、僕は悦んで受け入れる。獣のように本能に従順になってしまったのか、自ら舌を絡ませてお互いに呼吸を奪い合った。それでも、主導権を握っているベルフェゴールに呑まれて果てた僕は、そのまま意識を失った。
どれくらい、眠っていたのだろう。目を覚ますと、心配そうに覗き込んでいるメフィストと目が合った。
「め、メッフィー?」
「……おはよう御座います、パルタ様。お目覚めになられたようで、安心しました」
メフィストは上体を起こそうとしたパルタを支えようと、手を伸ばした。
「あ、ありがとう」
身体に力が入らず、結局メフィストに抱き起こしてもらった僕は、そのまま彼に身を任せることにした。丁寧に優しく接してくれるメフィストに、そういう面ではベルフェゴールより身を委ねているのかもしれない。
「パルタ様、なにかお持ちしましょうか?」
「じゃあ、水を」
「かしこまりました」
会釈して水を取りにと寝室から出て行くメフィストの背を、じっと目で追う。そして姿が見えなくなるのを確認すると、僕は再び事切れたようにベッドに身を沈めた。ベルフェゴールに喰われた所為で、満足に身体が動かせない。
「お待たせしました」
「ありがとう、早いね……っ!!?」
差し出されたコップに手を伸ばそうとしたが、上手く力が入らなくて落としてしまった。つかさずメフィストが空中でコップを取る。
「ご、ごめんっ……!」
「無理をしないで下さい。ここは私が……」
そう言ったメフィストに突然Kissを落とされて驚いたが、身を退く力もなかったので、そのまま彼のKissを受け入れた。
飲み終えると、メフィストはコップをサイドテーブルに置いて、ゆっくりと背に手を添えてきた。華奢な身体なのに、片腕で僕の全体重を支えていると思うと、やっぱりただのひとではないのだということを思い知らされる。
「パルタ様、もう少しお休みになられますか?」
「いや、でも……」
疲れているとはいえ、眠りたくなかった。夢の中だと、ベルフェゴールに逢いやすくなる。元々は同じ存在だからなのだろうか、精神世界でも夢の世界でも身体を重ねていると、自然と欲してしまう。ひとつになることを心から望んでしまう。僕はそれがとても怖かった。
「大丈夫、それより……仕事を」
とにかく、今は仕事に没頭したい気分だった。仕事をしている時は、そういうことを考えなくて済む。仕事が大好きというわけではなかったが、普段真面目に働いていた身としては、その方が心身共に楽だ。
「ですが……とてもお疲れのご様子ですし」
「大丈夫だよ。そんなに体力を使わない仕事にするから」
「御言葉ですが、お勧めできません」
彼の心遣いは分かる。僕を思ってのことだって重々承知はしていた。でも、退くわけにはいかない。
「本当に大丈夫だから」
「……ベルフェゴール様に逢うのが怖いのですか?」
「!」
心意を突かれて、心臓と肩が跳ねた。ああ、失敗した。なんて僕は分かりやすいのだろうか。その動作で「ベルフェゴールに逢うのが怖い」と即答してしまったようなものだ。
動揺と同時に、ベルフェゴールとの邂逅の記憶が流れ込んで来る。
「パルタ様……肩が震えています」

ーーーーー

「んぁ……ゃ」
「気持ちいいかい?」
「ゃ……あ、んぁ」
「ほら、正直にごらん?」
「いっいい、き、きもち、イイっ!」
「そう、それでいいんだよ」

ーーーーー

「っ!?」
忌み嫌っていた記憶を思い出して、僕は自分の両肩を抱いた。
「パルタ様?」
「さ、触るな!」
伸びてきたメフィストの手が、僕を捕えようとするベルフェゴールの手に重なって見えて、とっさに強く弾いてしまった。見間違えて彼を叩いたと僕が気づいた時には、メフィストは手を引っ込めて跪き、頭を垂れていた。
「失礼致しました」
「あ、いや、違うんだ。メッフィーは悪くない」
「……」
「メッフィー、僕……怖いんだ。ベルフェゴールに逢うのが怖くて、眠りたくない……」
「……」
「ごめんね……こんなこと言っても、どうしようもないよね。メッフィーはベルフェゴールの執事だし」
「はい」
「……」
「私はベルフェゴール様のバトラーです」
「……」
「……そして、私はパルタ様のヴァレットです」
「え?」
「私は確かにベルフェゴール様の執事ですが……同時に僕はそばで貴方を守る従者となりましょう。それでは、駄目でしょうか?」
「君が、僕の……従者?」
「はい」
メフィストはそう言うと、僕の頭を撫でながら抱擁してきた。それはベルフェゴールのように荒いものではなく、穏やかで、とても優しいぬくもりだった。心が落ち着き、自然と強張っていた筋肉が綻んでいく。
僕はいつの間にか、メフィストの腕の中で鳴咽の声を漏らしていた。
メフィストの腕の中が心地よくて、とても安心する。身体は自然と彼のぬくもりを更に求めた。手に力を込めると、メフィストはあやすようにくちづけをしてきた。
「ん」
「……」
段々くちづけは深くなっていき、ベルフェゴールに教え込まれたように僕は舌を絡ませた。
唐突な僕の深いKissに、メフィストは少し驚いた様子で僕を見たが、すぐにいつもの表情に戻って僕の首筋にKissを降らせた。
「あ……ぁ」
「パルタ様……お許し頂けるのでしたら、私と一時のまぐわいを」
悪魔の囁きに誘われるがままに、僕は肯定するように抱き返した。

 

メフィストは壊れ物を扱うように、僕に触れる。綺麗な指先が?、首筋、胸、腹と、段々秘めやかな場所を探るように下りていく。
彼は丁寧に服を寛がせると、首筋にKissをしてきた。僕は更なる先を求めて手を伸ばす。メフィストの手で溺れたい、と。
「パルタ様、失礼します」
僕の求めに応えるように、メフィストが秘めやかな場所に触れた。快感が電撃のように身体中を駆け巡り、メフィストの背中に手を回す。
「メッフィー、メッフィー、メッフィー!」
蝕むような快楽に酔いしれ、僕は譫言のようにメフィストの名前を呼んだ。
「ぁ!?」
身体の中心に舌を這わされ、自然と身が跳ねる。その反応に満足したようにメフィストは「ああ、パルタ様は、手より舌の方が宜しいようですね」と微笑んだ。
「め、メッフィー!?」
「不躾な発言をお許し下さい……とても、可愛らしく、愛しいですよ、パルタ様」
メフィストの唇が触れて舌で愛撫をされる度に、自分のものとは思えない悦な声が出て、羞恥心から片手を当てる。そんな僕の様子を見て、「恥じらうことはないですよ……とても綺麗です。僕に声を聴かせてくれませんか?」とメフィストに囁かれて、?が赤く染まっていった。
「申し訳ありません……ですが、パルタ様の姿があまりにも、嗜虐心を煽るので辛抱ならず……」
「でも、それ選んだら僕がそういう性癖だって言っているみたいで……」
「……では、どちらもするということで」
「え?」
止める間も無く、ネクタイで両手首を縛られ、視界を遮られた。
視界を遮られたことで、メフィストの愛撫をより感じてしまい、強すぎる快感に身を捩る。その度にネクタイが手首を締める力が強くなったが、快楽に溺れている僕にはそんな痛みなどなかった。
「…ぁん」
メフィストの指が奥に入ってくる。熱で蕩けているそこは難なく指を受け入れた。
中を探るように指が動き、ある一点を掠めた時、身体が跳ねて声がより一層甘くなった。
「かわいいですよ、 パルタ様」
かわいい、かわいい、と頭を撫でながら、メフィストは僕に指での愛撫を続ける。
「あなたの魂の声が快楽に染まるのを聞いていると、心地良い気分になります」
快楽の荒波に呑まれて朦朧とする意識の中、メフィストに抱き寄せられて、達す瞬間を見計らっていたかのように深いKissをされ、それから僕は気を失った。

 

「パルタ様、おはようございます」
「……!?」
目を覚ますと、メフィストの腕の中で眠っていることに気づいた。
眠った後にメフィストがやったのであろう……身は綺麗に清められていて、ベッドのシーツや衣服も取り替えられていた。
「ありがと、メッフィー」
「……喜んでいただけて何よりです。本日は仕事もありませんし、ゆっくりとお休み下さい」
「うん……じゃあ、もう少し眠るね」
優しい従者の温もりの中で、僕は再び眠りに堕ちていった。

END.

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