叙唱詩を奏でし悪魔

ラハヴ「おや?……可愛らしい侵入者さんですね。ここは天使だけが入ることを許されるメビウスの天使区画ですよ」
ナハト「え、じゃあ……お兄さんは天使なの?」
ラハヴ「……ええ、そうですよ」
ナハト「ボク、ラドゥエリエルさまを探してて」
ラハヴ「ラドゥエリエル?……ああ、副記録天使長ですね。彼でしたら、今は記録天使会議に参列していていますよ」
ナハト「えー!? もう、今日は診断の日って言ってたのにぃ」
ラハヴ「長くなりそうですし、私の書斎で待ちませんか?……おいしいクッキーを出しますよ」
ナハト「いいの!?」
ラハヴ「ええ、さあ……こちらへ」
ナハト「はーい(#^.^#)」

記録天使会議室。
プラヴュイル「メタトロン……君はあのウリエル様から直々に色々とご教授されたそうだな」
メタトロン「はい、そうです」
プラヴュイル「ふむ、では今夜我の部屋に来なさい。二人きりで話したいことがある」
メタトロン「……わかりました」
ラドゥエリエル「密会ならぬ、蜜会ですかな、記録天使長。人前で約束などするものではございませぬぞ」
プラヴュイル「別に構わんだろう……今はかわいくて美しい私の部下だ。ウリエルと言えど、理由もなしに手を下すことはできん」
ラドゥエリエル「嫌な趣味だな」
プラヴュイル「黙れ、スピリーガ3兄妹を日々侍らしている貴様に言われる筋合いはない」
ラドゥエリエル「……言うではないか」
メタトロン「本日の議題は破壊された工場にあった一体のアルマロイドの行方についてなのですが……」
プラヴュイル「議題する必要はない、木っ端微塵になったのだ」
ラドゥエリエル「だろうな、深く議論することはあるまい」
メタトロン「しかし……」
プラヴュイル「二度も言わせるな、メタトロン……会議は終わりだ」
メタトロン「ま、まだ1つの議題しかやっておりませんが……」
プラヴュイル「これでよい。さて、ラドゥエリエル……お前は出て行け」
ラドゥエリエル「ふん……変態め。それじゃ、残りの案件はこっちで適当に記録しておくとしよう」
ラドゥエリエルが出て行くと、プラヴュイルはメタトロンを壁に追いやった。
プラヴュイル「ふふふ、うまそうな顔をしている」
メタトロン「……っ」
プラヴュイル「ここでするのも一興であるな」
メタトロンの上着を肌けさせ、プラヴュイルはゴクリと唾を飲み込む。
プラヴュイル「はあ、はあ……うつくしい、美しいぞ、メタトロン」
メタトロン「……(ウリエル教官、たすけて)」

その頃。
ラン&シアン「ラドゥエリエル様」
ラドゥエリエル「おお、ランとシアンか。ナハトはどうした?」
ラン「……それが」
シアン「ちょっと目を離した隙にどこかへ」
ラドゥエリエル「まあ、よい……この辺にはいるだろう。後で探すことして、先に二人を診療するとしよう」
ラドゥエリエルは二人を研究室へと招き入れた。診療室手前の廊下でシアンを待機させ、ランから先に診療する。
ラドゥエリエル「ラン、今日は君だけに、今までと違う施術をする」
ラン「え、僕だけにですか?」
ラドゥエリエル「うむ、スピリーガの潜在能力を引き出す魔術を開発したのだが、それの実験台になってもらいたい。一番比率が安定している君が適格だと思ってな」
ラン「どういったものですか?」
ラドゥエリエル「悪いな、機密事項故に詳細は話せんのだ。だが、これが上手くいけばお前はもっと強くなれるだろう。そうすれば、大事な妹達を守ることができるぞ。そして、戦争にも早く勝てる、エデンに逆らう蛆虫共を滅ぼすことができる」
ラン「そうしたら、強くなってシアンとナハトを守れるか?」
ラドゥエリエル「ああ、最終的には二人が危ない戦に出ることもなくなるだろう。どうだ、施術を受けるか?」
ラン「(僕が強くなれば、シアンとナハトを危険な目に遭わせなくてすむ。僕たちスピリーガは戦闘の為に生み出された存在だが、二人を戦いに出したくない……その為にも)……受けます!」
一方その頃、ナハトは……
ナハト「ラドゥエリエルさま、まだ会議してるのかな」
ラハヴ「終わったかもしれませんね。会議室に行ってみるといいですよ」
ナハト「うん、そうする。ラハヴさま、ごちそうさまでした?」
ラハヴ「いえいえ、お粗末様です」
部屋を出たナハトは会議室へと突っ走った。
ノックなどせず「えーい!」と勢いよくドアを蹴って開けて室内に突入する。
プラヴュイル「!?……な、なんだ貴様は!?」
ナハト「!」
ナハトの目の前に、一糸纏わぬ姿のメタトロンと、そんな彼をテーブルに押し倒しているプラヴュイルが写った。
ナハト「うわぁ、痴漢だ、痴漢だ(≧へ≦)!」
幼いナハトには、二人が何をしているのか理解できなかったが、似たような展開をドラマや漫画などで知っていたので、その光景にありがちなセリフを叫んだ。
プラヴュイル「な、なんだと!? 我を痴漢だと!?」
ナハト「痴漢じゃないの? じゃあ、変態だ(≧へ≦)!」
プラヴュイル「く、貴様!」
ラハヴ「おや、記録天使長様……お楽しみ中でしたか……ですが、戴けませんね。ここは貴方の個室ではないんですよ。共同スペースで淫行を働くなんて、主への冒涜ではないんですか?」
プラヴュイル「ラハヴ!?」
プラヴュイルはメタトロンから離れると、ラハヴの腕を掴んで室外へと連れ出した。
プラヴュイル「むむ、頼むラハヴよ。今のは見なかったことにしてくれんか?」
ラハヴ「ええ、見てませんし、告発する気も、貴方を揺する気もありませんよ。その代わりなんですが、記録天使長で崇高で高貴な貴方に折り入ってお願いがあるんです」
プラヴュイル「崇高で高貴………ふふふ、申してみよ」
ラハヴ「実は自分、来週から教会入りになるのですが」
プラヴュイル「おお、聞いたぞ。聖職天使になるのであったな。だが、科学班から離れて聖職班の方へ行くとは……助祭から始めねばならぬのではないか?」
ラハヴ「そうなんです。そこをプラヴュイル様のお力添えで、司教にしていただけないかと」
プラヴュイル「くくく、お安い御用……我は聖職天使にも顔が利く。来週と言わず、明日から司教になれるよう取り計らおう!」
ラハヴ「本当ですか!……いやぁ、さすがプラヴュイル様、器が違いますね」
プラヴュイル「くくく、そうであろうそうであろう」

一方。
ナハト「なんで服着てないの?」
メタトロン「えっと、こ、これは……」
ナハト「暑いから脱いだの?」
メタトロン「う、うん。そしたら、プラヴュイル様が驚いて転んで、偶然あんな体勢に」
メタトロンは素早く衣類を纏うと、ナハトの頭を撫でた。
ナハト「?」
メタトロン「……ありがとう、たすかったよ」
ナハト「え?」
ラハヴ「失礼します……ナハト、そろそろ行きますよ」
ナハト「あ、はーい」
メタトロン「ラハヴ!」
ラハヴ「はい、なんでしょう?」
メタトロン「さっきのこと……教官には」
ラハヴ「ええ、言いませんよ」
メタトロン「あ、ああ……すまない」
ラハヴ「そんな謝ることないですよ……では」
シアン「ナハト、こんなところにいたのか」
ナハト「シアン!」
ラハヴ「ほら、お姉さんのところに帰りなさい」
ナハト「はーい、お兄さんありがとう」
健気に手を振ると、ナハトはシアンに抱きついていった。ラハヴはそれを見届けると、踵を返して自室へと戻る。
シアン「あれ……あの辺って」
ナハト「うん……なんか入っちゃいけないところだったみたい」
シアン「さっきの人に怒られなかったのか?」
ナハト「うん、クッキーくれたし」
シアン「クッキー(^_^;)?」
ラン「シアン、ナハト、帰るぞ」
シアン「え?……でも、まだアタシとナハトはいつもの定期診療受けてないけど?」
ラン「ラドゥエリエル様、急な呼び出しがかかって忙しくてな。それに、今回は僕だけで十分らしい」
ナハト「わーい、早く帰れる! ねぇねぇ、焼肉、焼肉食べよう」
シアン「そうだな……腹減ったし」
ラン「んじゃ、まずは肉買いに行くか」
和気藹々と帰っていく3兄妹を、窓から眺める影が1つ。
ラハヴ「かすかに感じる……異質の魔力……ラドゥエリエルはスピリーガで実験をする気ですか(まあ、思惑通りですね)……精々、動いて下さいね……僕の為に」
テーブルの上に置かれたチェス盤に駒を置くラハヴの影に、金色の悪魔が写り、満足そうに微笑んだ。

End.

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