叙唱詩を奏でし悪魔Ⅱ

ウリエル「おい、ミカエル」
ミカエル「?……なんだ」
ウリエル「俺のメタトロンは一体いつになったら記録天使長になれるんだ?」
ミカエル「私に聞くな。私でも分からないことはある。そういうことは主がお決めになることだ」
ウリエル「プラヴュイルやラドゥエリエルより、ずっと優秀だろ」
ミカエル「さっきも言っただろう。私に苦言を呈したところで無駄だ……その時になったら、いずれ分かる」
ウリエル「ちっ……もういい」
彼は力のない天使の下に、自分の部下がいることが気に食わなかった。
怒気を放ちながらミカエルの個室から出て、大理石の廊下を早足で歩いていく。
ラハヴ「これはこれはウリエル様。随分と苛立っておりますね……どうされたのです?」
ウリエル「ラハヴ大司教?」
ラハヴ「名前を覚えて頂いて光栄です」
ウリエル「ラハヴ、お前は無能な奴の下に手塩にかけて育てた部下がいたらどう思う?」
ラハヴ「部下をなんとかしてあげたくなりますね」
ウリエル「やっぱり、そうだよな……なんとかしてやりたいぜ」
ラハヴ「ウリエル様はメタトロン様を記録天使長にしたいのですか?」
ウリエル「ああ、そうだ……ゆくゆくは四大天使にしてやりてぇ」
ラハヴ「アークエンジェル(七大天使)ではなく、四大天使ですか……今のままでは難しいですね」
ウリエル「……ち、なんか良い手はねぇのか」
ラハヴ「プラヴュイルとラドゥエリエルに不祥事でも起きない限り、不可能ですね」
ウリエル「不祥事?」
ラハヴ「ええ、例えば……神の怒りを買ってしまうとか、大事な任務に失敗するとか」
ウリエル「……」
ラハヴ「おや……もうこんな時間ですか」
ラハヴ「夕飯の時間ですね。お引き止めしてしまって、申し訳ございません、ウリエル様……では」
ラハヴは深く頭を下げると、ミカエルの個室へと入っていった。
ウリエル「失敗、不祥事、か。なるほど」
残されたウリエルはラハヴの言葉を頭の中で反芻させると、頭を抱えながら部屋に戻った。
ラハヴ「さて、夕食を貰いに行きますか」

シアン「……で、こっちに来たんですか、司教様」
ラハヴ「はい。教会やメビウスの食堂の食事は無機質であまり好きではないので」
ナハト「ラハヴさまだ~!」
ラハヴ「こんばんは、ナハト」
ラン「まあ、ゆっくりしていってくれ、ラハヴさん」
ラハヴ「いやあ、おいしいですね。シアン、君はきっと良いお嫁さんになりますよ」
シアン「あはは、お世辞だったとしても嬉しいですよ、ラハヴ司教」
ラハヴ「本気ですよ、シアン……ふぅ、ごちそうさまでした。また食べに来ますね。今度は君のご飯が食べたいです」
ラン「丼料理だぞ」
ラハヴ「いいですよ、楽しみにしてますね、丼料理?」
スピリーガ家から出ると、ラハヴはメビウス本部へと帰っていった。
ラハヴ「どうしました?……こんなところにいるなんて」
自分の部屋の前に佇むメタトロンを目に留め、ラハヴは首を傾げて声をかける。
メタトロン「話したいことがあって」
ラハヴ「話したいこと?」
メタトロン「ラハヴ。僕は……無能なのかな。努力しているのに、ミカエル様も、記録天使長(プラヴュイル)も、副記録天使長(ラドゥエリエル)も僕を認めてくれないんだ」
ラハヴ「無能ではないと思いますよ。寧ろ、無能なのはプラヴュイルとラドゥエリエルでしょう」
メタトロン「……無能な奴の下で働くなんて嫌なんだ。また、ウリエル教官の下で働きたい」
ラハヴ「でも、階級や職位を贈与できるのは主だけです」
メタトロン「なんとかならないかな」
ラハヴ「そういえば、主はアルヒャルドとスピリーガを大変気に入っていらっしゃいますね」
メタトロン「え?」
ラハヴ「加えて、ベルゼヴルが戻ってきたら、さぞお喜びになるでしょう」
メタトロン「……戻ってきたら、主はお喜びになるのか?」
ラハヴ「ええ、恐らく……」
メタトロン「主のお気に召して頂くにはベルゼヴル。ラドゥエリエルを失脚させるにはスピリーガ3兄妹の絶命が必要か?」
ラハヴ「絶命かまでは分かりませんが……まあ、お怒りを買うには十分かと」
メタトロン「でも、ラドゥエリエルを失脚させても、プラヴュイルがいる」
ラハヴ「それは簡単ですよ」
メタトロン「?」
ラハヴ「ウリエル様に泣いて懇願するのです。『僕はどう足掻いても報われない、たすけて』……と」
メタトロン「え、そんな女々しくて情けないことしたら、教官は怒るよ」
ラハヴ「さあ……どうでしょう。やってみる価値はあると思いますよ」
微笑んで諭すと、怪訝な眼差しを向けつつメタトロンは頷いて自室へと戻って行った。
ラハヴ「二人とも、精々働いて下さいね。僕が首座司教になれるように」
この後、ビャクウがメタトロンに捕縛されたのはすぐであった。メタトロンはビャクウを盾にベルゼヴルをラミエルにした。
同時刻ではラハヴがラドゥエリエルにスピリーガにだけ作用するデスペルタルの紋章について話し、これで夜の天使レリエルができたら、晴れて記録天使長になれますね……と囁いた。
悪魔のようなラハヴの囁きに乗せられたラドゥエリエルは、ランを使ってデスペルタルの紋章のおぞましい実験を始めた。
まんまとラドゥエリエルを自滅への道に乗せたラハヴは、メタトロンに「副記録天使長ラドゥエリエルが怪しい動きを見せています、監視した方が宜しいかと……」と情報を流していた。
メタトロン「ウリエル……僕、無能なのかな。どんなに努力しても報われない……こんなの、いやだよ……たすけて、教官」
ウリエル「……!?」
彼は驚愕した。初めてだったのだ、メタトロンが泣いて感情を吐露するのは。普段は見せはしない姿を目の当たりにして、ウリエルは心底激昂した。
憤るウリエルに、ラハヴは訓告を願う。
ラハヴ「プラヴュイルなんですが……またティエリクを捕縛できなかったみたいですよ。四大天使として、貴方から叱咤して頂けないでしょうか?」
ウリエル「失敗ばかりなのに、平然とした顔でいやがるのか……つくづく気にくわねぇ! よし、俺に任せろ」
プラヴュイルとラドゥエリエルを理由をつけてウリエルとメタトロンが殺し、メタトロンはその功績を称えられて記録天使長に任命された。
そして、そのきっかけとなる情報を提供したラハヴは、二人の推薦を受けて司教と大司教を束ねる首座司教となり、更には空席となった教皇騎士団の団長に任命された。
紅嵐家の宗家の次期当主無き今、特に力もなく役に立たない紅嵐貴家のレイアが枢機卿を務めるのは如何なものか?……とウリエルとメタトロンに不信任案を提出したのだ。
彼の不信任案をウリエルとメタトロンは快諾し、レイアを枢機卿から降ろし、その後をラハヴに就かせた。
レリエル「一時的にボクが枢機卿代理だったね~。もう、なにしてたのさ……まあ細かいことはいっか。枢機卿就任おめでとう、ラハヴさま」
ラハヴ「ありがとうございます、レリエル。ようやく就きたい地位に登りつめましたよ。君は晴れて枢機卿補佐官ですよ」
レリエル「えへへ、かっこいい響き~?」
ラハヴ「あ……二人ともありがとうございます。おかげで枢機卿になれましたよ」
ウリエル「なんのなんの……やっぱ有能な奴が高い地位にいないとダメだからな」
メタトロン「これからも、お互い頑張ろうね」
レリエル「うん(#^.^#)」
ラハヴ「ええ、これからも宜しくお願いしますね」
他力本願で、ここまでの地位に上り詰めたラハヴは一同が話す中、心の奥で笑っていた。
こんなにも……ひとの心はなんと動かしやすいものかと。
彼は情報を提供し、考えを提案し、そして囁いただけ……。
水面下で、彼が悪魔の叙唱を奏でていることに誰も気づきはしなかった。

End.

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